量子力学では有名な「シュレディンガーの猫」という思考実験があります。
50%の確率で毒ガスが発生する装置が仕掛けられた箱に、1匹の猫が入れられています。毒ガスが発生すれば猫は死に、発生しなければ生きています。毒ガスの発生率は50%。とすれば、猫の生死も50%ずつの確率を秘めていることになり、蓋を開けて結果を目視するまでの間は、生きているとも言えるし、死んでいるとも言えることになります。
……ということで、生と死という相反する状態がどちらも存在するという概念が成立することを認めざるを得ません。一匹の猫の生と死が同時に成り立つはずはないのに、それを決定づける要因が確定されない以上、その結果として生じる生死についても、どちらとも確定できないという結論に至ることは避けられないのです。
とは言え、私たちの常識では、生と死が両立することは不可能なわけなので、こんな矛盾を生み出す量子力学は未だ不完全な学問である、ということを証明したくて、理論物理学者シュレディンガー氏はこの思考実験を用いたようです。
ところが、そこから新たな解釈が生み出されたり、それをもとに議論の場が広がるなど、結果的に「シュレディンガーの猫」は、量子力学を批判するどころか、この分野に一石を投じ、その後の発展に貢献したことになります。皮肉にも、量子力学の説明書のように取り上げられたりしますね。
人生に「シュレディンガーの猫」を受け入れた場合、私たちには数えきれないほどの可能性が生まれることになります。現実世界に矛盾が生じようとも、蓋を開けて結果が明らかになるまでは、あらゆる可能性が存在することが許されています。
未だ中途半端にふらふらと生きていると感じる時でも、あらゆる可能性に満ち溢れ、何をも実現化できるチャンスがあるのかと思い直すと、体中から喜びが湧き上がり、なんだか救われたような気がします。
量子力学の「シュレディンガーの猫」は、私たちを助けてくれます。
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